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透明人間 (1954)

THE INVISIBLE MAN

監督
小田基義
  • みたいムービー 4
  • みたログ 39

3.32 / 評価:19件

リアルで身につまされます

  • cyborg_she_loves_me さん
  • 2021年8月9日 15時42分
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

東宝が「ゴジラ」を作る時、先行するアメリカの怪獣映画(「キングコング」や「原子怪獣」のような)の単なる猿真似に終わらないように、テーマの中心を怪獣ではなく人間のパニックや恐怖といった感情の方へシフトさせました。
 「ゴジラ」は、特撮ももちろん魅力的ですが、とりわけ優れた人間描写によって、多くの人々の心をつかみました。

 「ゴジラ」に続く特撮映画として東宝が世に出したこの「透明人間」についても、まったく同じことが言えます。

 1933年の同名のアメリカ映画は、透明人間を一種の怪物として描いていました。人間の敵がもし目に見えない存在だったらどんなに恐ろしいか、ということを描いた作品でした。
 これに対してこの1954年の東宝の「透明人間」は、透明人間そのものよりも、透明人間が現われたということを知った市民たちがどうなったか、ということの方にテーマをシフトしています。
 それによってこの映画は、単なる恐怖映画に終わらない、人間というものの本性を深々とえぐり出す名作となっていると思います。

 新型コロナウィルスという目に見えない敵に日々の生活を翻弄され続けている今の私たちは、目に見えない敵が現われた時、人々の中にどれほどの疑心暗鬼や悪意が生まれるかを、実体験で知っています。
 この映画は、透明人間という設定は架空のものですが、それにからめて描かれている人間のありさまは、非常にリアルです。身につまされるところがたくさんあります。

 透明人間が1人生存しているとわかったら、すぐさま警視総監がテレビで情報提供を呼びかける。
 この時点で既に透明人間は犯罪者扱いですよね。「見えない人間からグサリやられたらイチコロだね」「まったく始末が悪いよ」という民衆の会話は象徴的です。実際には透明人間はきわめて善良な人間なのに、目に見えないというだけで悪人と決め付ける。
 マスクをしていないというだけで「迷惑だ」「社会の敵だ」と決め付ける風潮と、そっくりじゃないですか。

 そうして透明人間の噂が広まると、今度はそれを悪用して、透明人間のふりをして強盗や殺人を犯す連中が現われる。
 民衆の間にはますます透明人間への恐怖感が広まる。
 果ては、国会で透明人間をなかなか確保できない政府を糾弾することにまで発展する。

 ここまで来たら、映画のテーマはもう完全に、透明人間そのものではなく、透明人間パニックの方に移っています。
 そういう大騒ぎの背後で、本物の透明人間はひとりひっそりと、苦しんでいる。自分を題材にしながら自分とはまったく無関係な大騒ぎに展開している世の中のありさまを見て、悲しみ、そしておびえている。

 33年のアメリカ映画が完全にスルーしていた、透明人間自身の心情に、深い共感をもって寄り添っているところが、この映画の秀逸なところです。
 透明人間だって、体が目に見えないだけで、人間なのだ。
 現実世界でこれと同じ叫びを上げている人々を、私たちはたくさん知っています。黒人だって人間なのだ。女性だって人間なのだ。障害者だって、コロナ感染者だって、人間なのだ。なのに、こういう人々がそこにいるというだけで迷惑だと言う人たちがこんなにもたくさんいる。

 そういう現実を重ねながら見たら、これは身につまされる映画です。


 余談ですが。
 もうひとつ、1954年という時代の風物を記録している映画としても、この映画は貴重だと思います。
 当時の市民はまだ自宅にテレビを所有しておらず、街頭テレビで情報を得ていました。その街頭テレビには、観音開きの扉がついている。そうでしたそうでした、最初期の家庭用テレビには観音開きの扉がついてたんですよね。ついてない機種でも、みんな画面の前に垂れ幕を下ろしていて、視聴する時にはおごそかにそれを上げてスイッチを入れる。すると、「ブーン」という音と共にブラウン管が温まると徐々に画面が見えてくる。そんなことも思い出しました。
 当時の風物を如実に記録することは、製作者がはっきりと意図していたことだと思います。ストーリーからいえばあまり必要がない、キャバレーで歌手が歌ったりダンサーが踊ったりするシーンが、必要以上に長く収録されているのも、そのためでしょう。
 ピエロの格好をした「サンドイッチマン」とか、肌色の金属製の公衆電話ボックスとか、時代を知る人にとっては懐かしい光景がたくさん映っています。
 道路に自動車がほとんど走っていないのも、今とまったくちがうところですね。ちなみに当時は、ちょっと横丁に入れば、舗装していない土の道路は当たり前でした。だから車が急停車するとぶわーっと土煙が上がる。そんな光景も懐かしかったです。
 映画の本題とは関係ありませんが、この映画で私が大好きなところです。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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