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ハワイ・マレー沖海戦 (1942)

監督
山本嘉次郎
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4.17 / 評価:23件

戦時中に公開された国策映画の代表作

今回取り上げるのは、1942年に公開された東宝映画『ハワイ・マレー沖海戦』。戦時中の日本映画の作品レビューを書き込むのは初めてだ。この年のキネマ旬報ベストテンでは日本映画の1位に輝いた。ちなみに41年と42年のキネ旬は外国映画のベストテンは発表しておらず、43年から45年までの3年間はキネ旬ベストテン自体が中止になってしまった。
本作を企画したのは大本営海軍報道部で、国民の戦意高揚を目的とした国策映画である。こうした映画はほとんどが日本の敗戦とともに歴史の狭間に埋もれ忘れられた。その中で生き残り、現代の観客が観ることができる数少ない一本である。1984年11月に日比谷の有楽座と日比谷映画が閉館されたとき「さよならフェスティバル」で上映されたことがある。

冒頭に「一億で背負へ 譽の家と人」という標語が表示される。「譽(ほまれ)の家」とは戦時中の日本で、その一家から出征した兵士が戦死したことを指すが、本作を観て初めて知った。次いで「謹みてこの一篇を、ハワイ・マレー沖海戦に散華されたる、護国の英霊に捧げまつる。製作者一同」というコメントが表示され、戦時中の映画であることを感じさせる。
現代の目で考えれば、戦争で負けるのはもちろん、勝てる戦争だって絶対やってはいけないと思う。アメリカに戦争を仕掛けて勝てるはずがなく、昔の日本は無謀な道を突き進んだと言われる。しかし当時を生きる人々の選択を、今の価値観で審判するのが果たして公平なのだろうか?そんな疑問を感じつつ、一本の映画として楽しむのも有りではないか、と思った。

僕たちは日本が戦争に負けて甚大な被害を受け、なおかつ他国に被害を与えたことを知っている。本作で描かれる「予科練の精神」を軍国主義的だと批判的な目で観るのはもちろんだ。しかし初公開当時に観た人たちは肯定的な感想を持ち、「米英をやっつけろ!」と盛り上がる人も多かったに違いない。映画というメディアの影響力の大きさを考えさせられる。
予科練精神は、頑張りの精神、命令された任務はあくまでやり抜く絶対服従の精神、勝つまではどこまでも食い下がる敢闘精神、自分を犠牲にして全体の目的を遂げる犠牲的精神と語られる。「絶対服従の精神」の根底に流れるのは、命令は天皇(映画では「大元帥陛下」と言われる)から下されるという考えで、どんな理不尽な命令も陛下の命令として是とされるのが怖い。

日本で作られた戦争映画の代表作を一本だけ挙げろと言われたら、僕は「ひめゆりの塔」と答えるが、『ハワイ・マレー沖海戦』はその対極にある代表作といえるだろう。本作は爆弾を上空から落とす者の立場で描き、「ひめゆりの塔」は落とされる者の立場で描く。そして戦争では落とされる側に立つ非戦闘員が圧倒的多数なのが事実なのである。
両作に共通しているのは、藤田進がメインキャラとして出演していることだ。僕にとっては「ウルトラセブン」や「帰ってきたウルトラマン」の参謀としてなじみが深い。両作とも練習生や女学生から慕われる人格者として描かれるが、大きく違うのは「ひめゆりの塔」のラストで女学生を背後から撃つ場面があり、これが戦争の理想と現実の違いを表しているように思う。

藤田さんの出演したウルトラシリーズといえば、本作の戦闘シーンを担当した特撮監督の円谷英二である。水と火を使ったミニチュア特撮は迫力を出すのが難しいと聞いたことがあるが、本作ではそうした困難な特撮に挑んでいる。「ゴジラ」の冒頭で海上での船の爆発、「ウルトラマン」第1話で湖上での戦闘が描かれるのも、本作の精神を受け継いだと言えるだろう。
飛行機の実写がふんだんに登場し、クライマックスの特撮と組み合わせることで映画に深みを与えている。前半の舞台となるのが土浦海軍航空隊・飛行予科練習部(通称予科練)で、霞ヶ浦でボートの練習をしたり、複葉機で筑波山目指して飛行したり、帰省した主人公・友田義一(伊東薫)が霞ケ浦のワカサギを土産に持って帰るなど、茨城県のご当地映画の側面もある。

日本と戦う敵についても書こう。映画のラストで撃沈されるイギリス戦艦プリンス・オブ・ウェールズは、ドイツ軍の戦艦ビスマルク号と戦ったことがある。僕はテレビで映画「ビスマルク号を撃沈せよ!」を観たことがあるが、この映画は真珠湾攻撃より前の話だったのだ。予科練の練習生たちが、イギリス発祥のスポーツであるラグビーで大学生と対戦する場面もある。
最後に、友田の姉を演じる原節子の規格外の美貌にはやはり目を奪われる。友田の見る夢の中で、姉と妹が「魔女宅」のキキのような大きなリボンを頭に付けて、チョコンと座っている。「二人ともどうしたのさ。まるで気ち○いみたいじゃないか」という放送禁止用語も登場する。勇壮な戦意高揚映画の中で、ここだけが妙な異彩を放つ幻想的な場面であった。

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