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近松物語 (1954)

監督
溝口健二
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4.24 / 評価:139件

これほど激しい恋愛映画を他に知らない

今回取り上げるのは、1954年の大映映画『近松物語』。溝口健二監督の作品レビューを書き込むのは「雨月物語」に続いて2作目だ。同年のキネマ旬報ベストテンでは、日本映画の5位に選ばれている。主演は長谷川一夫と香川京子で、香川さん自身も好きな映画として挙げている。
残念ながらスタッフ・キャストのほとんどは亡くなっている。88歳になった香川さんだけが健在であり、今後も公開作が控える現役女優である。近年ではテレビドラマ版「この世界の片隅に」で、原爆で親を喪い主人公・すずの養子となった孤児の現在を演じていた。最近は香川さんの名前を冠した映画祭が全国で開かれ、そのゲストとして招かれることも多いという。

僕はほんの小さい頃に、本作がNHKでテレビ放映されたときに親に付き合って観たことがある。セリフが聴き取りづらかったのと、音楽がことごとく和楽なので地味な印象しかなく、名作という話は聞いていたがピンと来なかった。一緒に観た親も似たような感想だったと思う。肝心のストーリーが、主役カップルが不幸になるという話以外はよく分からなかった。
ただし罪人として引き回されるカップルに向かって、元同僚の女中さんが「あんな晴れやかな顔をして。本当にこれから死ぬのやろうか」と呟く、映画史上に残るラストシーンだけはハッキリと覚えている。改めて観直してみると、これほど情熱的な恋愛を描いた映画は、世界でも例がないと思うほどの名作であった。単に不幸な恋愛ではなく、実に痛快な物語でもあったのだ。

江戸時代の京都周辺を舞台とした時代劇である。朝廷が使用する暦の製作を一手に引き受けて莫大な利権を手にする「大経師」。ここで働く腕利きの職人である手代・茂兵衛(長谷川一夫)が主人公。もう一人の主役は大経師の店主・以春(新藤英太郎)の美人妻・おさん(香川京子)で、この美男美女が道ならぬ恋に落ちるというわけだ。
もう一人の主要キャストは南田洋子で、映画では香川さんと一緒に名前が出る。大経師で働く住み込みの女中・お玉を演じており、出番は少ないが重要人物である。お玉は茂兵衛を好いているが、若くて可愛いので以春に言い寄られセクハラ行為を受けて困っている。大経師を辞めてしまうが、その店はラストでお取り潰しになるので結果オーライということになる。

初登場の茂兵衛は風邪で臥せっており、咳を繰り返すので観ている僕は「結核ではないか?」と緊張する。店主に信頼される職人なので、ひっきりなしに仕事の問い合わせが来て、おちおち寝ている暇もない。お玉から悩みを告白されても「下手に騒ぎ立てると店の名に傷がつく。ここは辛抱することや」と言うだけだ。そんな彼がどう変わっていくかが見ものである。
おさんの初登場時は、人妻らしくお歯黒に眉を剃った姿である。店を訪れた兄から五貫の金を無心されて「いつもお金の話ばっかり」と浮かない顔をしている。おさんの実家は、最初から彼女を都合のいい金づるとして大経師に嫁がせたのだ。しかし旦那の以春は無類のケチで、おさんが「聞いて欲しいことが・・・」と持ちかけても「金の無心なら聞かんぞ!」と拒否してしまう。

体調不良の茂兵衛に、旦那の不貞行為という問題を抱えたおさん。この二人が駆け落ちし(おさんの金銭問題を肩代わりしてクビになった茂兵衛に、旦那に失望したおさんが強引に付いて行く)、物語は一気に動き出す。茂兵衛は大坂で知り合いの店を廻って五貫の金を捻出し、飛脚でおさんの実家に送り届ける。店を追放されても約束を守る、彼の義理堅さが分かるシーンだ。
以春はおさんを取り戻すべく追手を差し向け、追いつめられた二人は心中するしかないと、琵琶湖へ舟で漕ぎ出す。おさんの両足を縛る茂兵衛の、職人らしいテキパキした手つきが妙におかしい。「死ぬ前だから言いますが、私はあなたに惚れていました」「ええっ?これは死んではいられない。生きて二人で逃げましょう!」。死ぬ覚悟をした二人の顔に生気がみなぎっていく。

家の対面だけを重んじる以春は、妻の不義密通を奉行所に届け出ず、茂兵衛だけを罪人として捕えようとしていた。それを知った茂兵衛は堅田の山中で密かにおさんから去ろうとするが、おさんが「茂兵衛、茂兵衛!おまえはもう奉公人じゃない。私の夫や。旦那様や!」と泣きながら追いすがって来る。あらゆる障害を越えて結ばれる二人・・・本作最大の名シーンである。
しかし二人が現世で添い遂げるすべはなく、行き着く先は死罪しかない(前半で、武家の奥方と使用人が引き回されるシーンが伏線になっている)。一度は捕えられ引き離された二人だが、茂兵衛は父親に助けられて脱出し、大胆にも実家に戻されていたおさんの元に行く。二人は自ら奉行所に自首し、ブラック会社である大経師を道連れにして、この世に別れを告げるのである。

詳細評価

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