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四谷怪談 お岩の亡霊

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3.0

ネタバレ近衛をなぜそこまで立てたの?

鶴屋南北の「東海道四谷怪談」は、日本のホラー・フィクションの頂点に立つ作品。当然映画化も多い。最高傑作とされるのは天知茂主演、中川信夫監督の新東宝版だが、これは、東映1961年版。監督は加藤泰。 まず、お岩を演じた藤代佳子だがこれが実にピッタリ。知らない方のために紹介すると、ルックスは岩下志麻で声は岸田今日子といった感じ。ね?怖そうでしょ? お岩に毒を盛るのは、隣家の伊藤さん夫婦。娘のお梅(三原有美子)が伊右衛門に一目ぼれしてしまったため、娘かわいさのあまりお岩さんの顔が変わってしまえば、民谷様のお心も変わるるのではと顔が変わる毒を薬と偽って産後の肥立ちが悪いお岩さんにすすめる。そのときの伊藤さんちの奥さんのニコヤカで上品な笑顔からは、全然悪巧みのワの字も感じられない。 それを傍で聞いていた民谷家の下男、五平(伏見扇太郎)が病気の母親のために薬を盗もうとして伊右衛門にとっつかまり半殺しの目に。いやあこういうときの若山富三郎って本当に暴力装置。とても楽しそう。赤ん坊の 蚊帳を呑み代のため質草に持ち出そうとして止めるお岩の手から蚊帳をひったっくったら、お岩の生爪が剥げて血みどろなんてシーンもあった。この五平が結局殺されて、お岩の不義の相手に仕立てられちゃう。 暴力装置、若山富三郎の暴走はお梅との婚礼の夜に。もともとまともでないのが発狂しちゃったんだから、とんでもなくなっちゃう。お梅の首を跳ねたのを手始めに伊藤さん一家や使用人達を皆殺し。浴槽一杯ぐらいの血糊が床にぶちまけられて、それに足をとられて転びつまろびつながら、暴れるのをやめない。ほとんど怪獣だ。 そんで、川に行ったら、「戸板がクルリと裏返る」。 で、この映画の場合、問題点は直助(近衛十四郎)。こいつは町人で伊右衛門のワル仲間。お岩・お袖の父親を殺したのも、お袖の婚約者、佐藤与茂七(沢村訥升)を殺したのもこのコンビ。伊右衛門にお岩を殺すようすすめたり伊右衛門がお梅と婚礼を挙げたのを知って脅迫に現れたりと相当のワル。ちなみに脅迫場面では「首が飛んでも動いてみせるさ」って台詞を伊右衛門が言う。これはピカレスク物語として非常に重要かつ有名な台詞で他の作品でもたびたび引用されている。 直助はお袖に惚れていてそのために佐藤を殺したのだが、実は殺した相手は人違いで佐藤は生きていたということがわかる。 そうすると、突然直助は改心してしまう。全てを打ち明け、お袖、佐藤と3人で伊右衛門を討ちに出かける。あの腐り切ったワルが正義の味方に豹変する展開に、観客は目をシロクロさせるのみ。鉄砲玉役で斬りこんだ直助は伊右衛門に斬られ、「ギャー」と悲鳴を上げるがそれでも伊右衛門に深手を負わせ、お袖が止めを刺した。直助は憧れの人・お袖の腕の中で安らかに息を引き取った。 あのさ、何もこんなに近衛十四郎を立てることないのに。これじゃ誰が主役だかわかんないぞ。 加藤泰の映像は、いかにも「らしい」仕上がりになっている。下から見上げるアングル、上から見下ろすアングル。手前と奥に人、物を配置した構図設計。長回しでカメラをパンで振るなど「3D表現の魔術師」たる面目躍如で、セット撮影に立体的な奥行きを出している。 それにしても昔の時代劇のセットは凄いなあ。モノクロでも手抜きのないことがよくわかる。

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