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ふたり

ふたり

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5.0

美しく哀しい喪失の映画

石田ゆり子のウィスパー声、雨や水や風のある情景、端々にチラつく赤い色が、この美しく哀しいヒリヒリした喪失の物語を彩っている。 大林宣彦の映画には一貫して、喪失、初恋、目眩、音楽へのロマン、(それに、きらめくような美少女たち…)、子供と大人のあいだで揺れる不安定な心理がある。 とはいえ、「新・尾道三部作」の一作目となる今作、「尾道三部作」時代のミラクルよりも、より「身近な」主題となっているように感じられる。何故か? 大林がここで描きたかったのは、まず何より「亡き人とともに生きてゆくこと」だろう。 身近な、かけがえのない人の喪失。 ある一人の人物をめぐっても、人それぞれの悔い、苦しみ、哀しさ、寂しさのかたちがある。 それは、ある段階までは共有可能だ。しかし根底のところで、あくまで「ひとり」のものでしかありえない。亡き人への想いは「ひとり」で抱えざるをえない。誰にも見えないところで、孤独にその人と向き合わざるをえない。 歳を重ねると、誰しもそんな「ここにはいないけれど、自分の中で生きつづけている人」の一人や二人はいるだろうし、悔いの残ることの一つや二つもあるだろう。 そういった、実は、誰しもが抱えうる「ありふれた」、でも誰にも積極的には打ち明けたくないような、言語化しづらいような極個人的なことにまつわる映画が、今作なんだと思う。 中嶋朋子の美しさが奇跡的。 石田ゆり子は夢見る表情から狂気的な表情まで、大したもの。大根っぽく見えるのは、リアリズムをあえて排除する大林独特の演出によるものであり、むしろ成功だと思う。 驚いたのは、後半に描かれる父親の抱える孤独、苦悩…、大林宣彦が、こんな中年の男のどうしようもない、やるせない姿を描くとは思わなかった。大人には大人にしか分からない、哀しさ、寂しさ、孤独や苦悩がある。むろん、父親に非があることも否めないのだが、そう単純化することのできない哀しさや苦悩というものが、人にはある。人間は弱い。 それを知ってか知らずか、傷つきながらも「お風呂に入っていらしたら?」という一言で自然に受けとめてしまう母親の姿、彼女の演技に、震撼した。 母親の身体の所作と声は、全編通して「これぞ昭和の女優の物腰」というもので、舌を巻いた。 大林宣彦、実は主人公の姉妹「ふたり」だけでなく、この両親、夫と妻の「ふたり」の姿をも描きたかったのではないか、と言っても言い過ぎではないのでは…。 細部にさりげなく尾道の昭和的な風俗が描かれているのも、実にいい。 大林映画は愛に溢れている。 一つだけ難をいえば、冒頭のチカンのシーン。ちょっと見ていられない…。 ああいったこと、実際、そう珍しくもなかったのかもしれないが、場合によってはトラウマがフラッシュバックするような不快なシーン。あそこで席を立つ女性がいても不思議じゃないよなぁ、と思う。

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