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雷撃隊出動

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5.0

日米戦意高揚映画の比較(日本編)

太平洋戦争中の昭和19年(1944年)に製作・公開された海軍省協力の戦意高揚映画です。 海軍の全面協力で撮影されただけあって、実物の軍艦や航空機が多数登場し軍事マニアや戦争映画ファンの間では大変有名な作品です。 特に雷撃機「天山」が空母「瑞鶴」から出撃するシーンは、今日では伝説になっています。 戦時中の日本の国策戦意高揚映画と言えば、ガチガチの軍国タカ派戦争完遂映画を連想しがちです。 もちろん、そのタイプの作品も多いのですが、この「雷撃隊出動」はかなりニュアンスの異なる映画と言えます。 監督はやはり海軍協力映画「ハワイ・マレー沖海戦」を撮った山本嘉次郎です。まだ戦争に勝っていた頃に製作された「ハワイ・マレー沖海戦」は全体的に明るい演出で日本軍の楽勝ムードで演出されています。 少なくともこの映画を見ている限り「米軍は弱兵、この戦争は日本が勝てる」といった感想を持ちます。 しかし、戦局が悪化した昭和19年に製作された「雷撃隊出動」には”楽勝ムード”は全くありません。むしろ悲壮感さえ感じられる演出になっています。 驚かせられるのは劇中で前線の海軍士官たちが「お偉方は現場が分かっていない、飛行機が全然足りないんだ!」と軍上層部を批判するシーンがある事です。 国策映画で軍上層部を批判するとは!! 米軍も強力で手ごわい相手として描かれています。もちろん、”正義”は日本軍、”悪”は米軍という描き方ですが、「とても楽に勝てる相手ではない、この戦争は前途多難だ」と誰もが感じる演出です。 昭和19年といえば多くの日本人が戦局の悪化を肌身で感じていた頃です。そんな状況で”楽勝映画”を作ったとしても観客の共感を得られない、という判断があったのでしょうか? あるいは、海軍の一部に「この戦争は勝てないかもしれない」と言う事を暗に国民に知らせようとする考えがあったのでしょうか? 映画後半で日米両軍の大海戦があります。 この海戦の結果を国民に知らせるラジオ放送のシーンがありますが、その放送内容は「この海戦で敵機動部隊の大半を撃滅せるも、我が方の損害も大」というものです。 主人公の海軍パイロットたちも大半が戦死します。 ある意味において戦争の結末を予感させる映画だとも言えます。

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