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CURE キュア (1997)

監督
黒沢清
  • みたいムービー 144
  • みたログ 1,143

3.68 / 評価:406件

恐ろしいまでに見せ方の上手い映画

  • venimeuxvenin さん
  • 2015年8月19日 11時26分
  • 閲覧数 3363
  • 役立ち度 5
    • 総合評価
    • ★★★★★

まず最初にはっきり述べると、ストーリー面の新鮮さはない。
間宮(萩原聖人)という異様な雰囲気を持つ人物が、出会う様々な相手に催眠をかけて殺人に誘導し、
そして間宮を捕まえた刑事、高部(役所広司)も間宮を取り調べる中で次第にその催眠に意識を侵されていく、という筋書きだ。

当時とすれば斬新だったかもしれないが、今ではもう見慣れたネタである。
むしろ、そんな簡単に(一瞬で)催眠にかかるのか?とか、
催眠で本当に人を殺人に駆り立てることができるのか?とか、
そもそも×印を残す意味ないだろw(むしろこの×がなければ、連続殺人ではなくそれぞれ個別の事件として扱われたはず)とか、
シナリオ的に弱い部分が少なからずある。


しかしこの映画の凄まじいところは”見せ方”だ。
まさに監督の映像センス、そして俳優の鬼気迫る怪演によってこの簡素なストーリーに異常なまでの説得力を与えている。

まず、この映画のキーとなっている「催眠」
催眠術というと胡散臭いが、間宮のそれは誰かを意のままに操る超能力ではない。
むしろその人間自身がもともと抱えている不満や不安、つまりストレスを刺激する程度のものである。

もともと抱えていたストレスが我慢できなくなっての殺人。

そういう意味では、各殺人事件の犯人は、間宮と出会わなくてもいつかは同じことをしたかもしれない。
間宮はちょっと彼らを刺激しただけなのだ。
そういったストレスの暴発・発散が、「CURE(癒し)」ということなのだろう。


そして、刑事高部にもストレスがあった。
認知症気味で、日常生活もままならないような妻のことだ。
高部の妻は一日中(夜中でも)空の洗濯機を回し続け、夕食を作ったつもりで皿の上に生肉を置いていたりする。
しかしその一方、叫んだり暴れたりすることはなく、見た目は貞淑な妻そのものなのだ。
いっそ狂ってくれれば愛も冷めて楽になれるだろうに、その愛すべき妻の顔と、愛しがたい行動によって高部は酷く苦しめられていた。


そこで高部は間宮に出合う(逮捕する)のである。
間宮は巧みに高部のストレスを刺激し、ある晩、高部は家に帰ると妻が首を吊っているのを見つける。
このシーンの高部の慟哭はまさに凄まじいの一言だ。
名優役所広司の仕事の中でも屈指の名演技なのではないだろうか。

が、次の瞬間「あら、あなた、おかえりなさい」なんて、ケロッとした顔で妻が現れたりする。

その後も妻は何度も元気に登場するので、視聴者としては「あぁ、あの首吊りは幻覚だったのか」と思いたいところなのだが、
しかし役所さんの慟哭の演技があまりにも鬼気迫る迫力であったので、「いや、本当は首を吊った方が現実だったのかも…」と完全にどちらが幻覚だとは言い切ることができず、胸の中に一抹の不安が疼き続ける。

このどちらが現実なのか?というのは他の映画でも良く使われる手法だが、
CUREが巧みなのはこの現実と幻覚を分からなくするシーンはこの場面だけということだ。
どこでもここでもゴッチャゴチャに夢と現実をひっくり返してしまうような最近の映画とは違う。

このワンシーンだけで「夢と現実が分からなくなったぞ」という強烈な印象を視聴者に与え、あとは普通に(現実的に)ストーリーを進行させる。

するとどうなるか。
視聴者は高部のことが徐々に信じられなくなってくるのだ。
視聴者は現実的にシーンを見ているが、その場にいる高部が今正気なのか狂っているのか視聴者には分からない。
だから、不意に次の瞬間、高部が暴発して周りにいる同僚や友人を殺すんじゃないかと視聴者は不安でたまらなくなるのである。

映画前半では頼もしい刑事だった高部が、上記の首吊りシーンを境にして徐々に信用ならない人物になっていく。
この徐々に落ちていく感じ、いや、落ちているのかどうかすら定かでない不安感こそがこの映画の恐ろしいところ。
目に見えない怖さとはまさにこの感覚のことを言うのだろう。


途中、高部が誰もいない部屋で壁に向かって話しているシーンがある。
視聴者は「ついに高部が狂ってしまった!」と絶望するが、
しかし実はその部屋はL字型の部屋で、壁のように見えた場所には奥行きがあり、高部はそこにいる人物と喋っていただけ。「あぁ、良かった。高部はまだマトモだった…。少なくとも、まだ…」

そういう視聴者心理を巧みに揺り動かす仕掛けが随所に散りばめられていて、この映画は本当に上手い。
ストーリー的にはありきたりでも、この”上手さ”が物語を引き立て、飽きさせない。
この上手さを堪能するだけでも十分な価値がある映画だろう。

映画を面白くするエッセンスとは何なのか。カメラワークをがちゃがちゃやって、CG使えば何とかなると思っている監督方にこそ是非見てほしい映画である(笑)

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