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耳をすませば

耳をすませば

WHISPER OF THE HEART

111

par********

4.0

もう一つの「風立ちぬ」

長らく甘酸っぱい恋愛映画なのだろうと敬遠してたが鑑賞してみて驚いた。直球の”創作”映画だった。 脚本が宮崎駿だとあとで知って納得した。彼の晩作の「風立ちぬ」はまさにこの問題意識に連なる作品だからだ。風立ちぬでは堀越二郎の狂信的なまでの戦闘機への傾倒を描き、創作におけるエゴイズムを暴き出した。他社を顧みない自己目的としての創作、それがモノづくりの(罪深い)あるべき姿なのだろう。 「耳をすませば」は主人公の月島 雫がボーイフレンドへの劣等感から創作(小説)に打ち込み始めるのが後半のメインストーリーとなる。 この映画のすばらしい点は、青春という有限の時間を「創作」という行為によって切り取った点だ。誰もが持つその短い時の瞬間を我々はどう燃やすべきなのか(べきだったのか)を描いている。そして、その”べき過去”にカスリもしない過去を送った我々には後悔という名の痛みを与えるのだ。 この映画の”べき過去”とは「恋愛に励め」ではない。そこがよくある青春映画と一線を画すところだ。小説でもない、おそらく創作にも限らない、「一心不乱に打ち込んだか」なのかだと思う。あらゆるものを投げ捨ててでも打ち込むべき瞬間があの時あったのではないか、この映画はそういうことを訴えているのだと思う。そして打ち込むひとへのエールの映画でもある、だからこの映画は美しい。 これは宮崎駿からの、”べき過去”にいる若者への啓蒙映画である。

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