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Kids Return キッズ・リターン (1996)

監督
北野武
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4.32 / 評価:957件

更生すれば報われるという嘘をつかない作品

  • yab***** さん
  • 2019年3月5日 22時16分
  • 閲覧数 1866
  • 役立ち度 1
    • 総合評価
    • ★★★★★

 ワルがたとえばボクシングに打ち込んで更正しようとしても、所詮途中で挫折して更正できない。ストーリーテラーなら、必ず更正させてチャンピオンかなんかにしてシンデレラストーリーで終わらせるだろう。
 そんななまやさしいことを北野武はあえてしない。彼は胸のすくようなリアリストである。進学校で落ちこぼれた二人を彼はけっして容赦しない。同級生からかつあげしたり、教師の車を燃やしたりする極悪非道な人間が、ボクシングによって少しくらい更正してやろうなんて甘っちょろい試みを、彼は認めようとしない。

 彼はけっして更生すれば報われるという嘘をつかないのだ。喫茶店に入り浸って、その店の女の子に愛を告白する男に対して、彼はけっして花道をもたせない。所詮いくらアタックしようが女は彼に振り向かず、現実は変わらないままだ。
 しかし、いったん横道にそれた人間の更正には冷たいが、横道にもそれず地道に一つの道を極めようとする人間には、彼は優しい。高校生から漫才を目指すふたりがいい例だ。彼らはだんだんお客さんが入る売れっ子に変身していく。北野武は、彼らみたいなタイプはけっしてスポイルしない。

 やくざにもなりきれず、ボクサーにもなりきれないとても優柔不断なふたりに、北野武はとても残酷なことを言わせる。
 
「マーちゃん、俺たち、もう終わっちまったのかな」
 「ばかやろう、まだ始まってねえよ」

 この会話は、彼らにとってとても残酷である。ここまで開き直らなければならない現実が残酷なのだ。この会話にはあまりにも先がなさすぎる。多分彼らはこの先の言葉をつなげることはおそらくできないだろう。この先はおそらくしばしの沈黙だろう。どっちも次の言葉を発する勇気は持てないだろう。そのくらい自分の生き様に対する精一杯の強がりなのである。すべてが無に帰してしまうことを回避する崖っぷちの抵抗なのである。その先の言葉を予想させない久石譲のアップテンポの音楽が絶妙である。

 バイク事故により生死をさまよった北野武の復帰第一作。彼の親友である挫けぬボクサー辰吉丈一郎に捧げた作品だそうだ。
 そんな想いが久石譲の音楽に込められている。彼の音楽は、まるでヘミングウェイの骨太の文章のように僕らに突き刺さってくる。そしてその痛みは、あくまでも現実の痛みとして再び僕らに還ってくるのである。

詳細評価

物語
配役
演出
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音楽

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