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サンセット大通り

サンセット大通り

SUNSET BOULEVARD/SUNSET BLVD.

110

アニカ・ナットクラッカー

5.0

蝋人形の館を舞台にしたブラックコメディ

今回取り上げるのは1950年のアメリカ映画『サンセット大通り』。ビリー・ワイルダー監督の作品レビューを書き込むのは「七年目の浮気」「お熱いのがお好き」に続いて3作目。日本では翌51年に公開され、その年のキネマ旬報ベストテンでは「イヴの総て」に続いて外国映画の2位に選ばれた。 シリアスなドラマとして現代でも大変人気のある映画だが、僕はブラックコメディとして楽しんだ。何と言っても無声映画の大スター・ノーマを演じるグロリア・スワンソンの目力の強さ。音声がなく画面と字幕だけで全てを表現する時代ならではの凄味である。しかし後半になるとノーマは完全に気が変になり、カッと見開いた目から光線でも出るのかと思っておかしくなった。 映画はジョーという売れない脚本家(ウィリアム・ホールデン)のナレーションで進行する。映画の都ハリウッドにあるサンセット大通り。その脇に立つ大豪邸が警察や報道陣で慌ただしくなる。殺人事件があったらしく、哀れな男がビックリした顔をしてプールで死体となって浮かんでいる。背中と腹を銃撃された、その死体こそがジョー本人なのである。死人がナレーションを担当・・・、人を食った有名なオープニングである。時代は半年前に遡り、映画はジョーに何が起こったかを説き明かしていく。 オープニングではウィリアム・ホールデン、グロリア・スワンソン、エリッヒ・フォン・シュトロハイムの3人が一画面に表示される。ホールデンは「タワーリング・インフェルノ」、スワンソンは「エアポート’75」と、僕にとってはいずれも1974に作られたパニック映画の印象が強い。「エアポート’75」では、生還したスワンソンの言う「朝はいつだって清々しいものよ。若い時にはそれが気付かないだけよ」が、映画を締めくくるセリフになっている。これは彼女の代表作となった本作の落日・破滅というイメージを逆手にとったものだろう。 もう一人のメインキャスト、シュトロハイムはノーマの忠実な召使マックスを演じている。スキンヘッドに無表情でノーマに尽くしているが、実は16歳だったノーマの初主演作品を監督した人であり、彼女の最初の夫であった。マックスがこの事をジョーに告白するシーンはかなりビックリする。 映画史上有名なラストシーン。ジョーを射殺したノーマに待つのは破滅しかない。しかし精神に異常を来した彼女にはジョーを殺した自覚はなく、撮影中の映画の一場面か何かだと思っているらしい。「サロメ」の主人公になりきってポーズを取りながら階段を降りていくノーマ。周囲にいるのは映画スターを歓迎するファンではなく、殺人犯を逮捕しようと待ち構える警察や報道陣の人々である。 ノーマを深く愛するマックスは、彼女がカメラに囲まれる最後の機会であると知っている。かつて監督だった時のように、ノーマに「よーい、アクション!」と声を掛ける。無表情だった彼の顔が、この時ばかりは過去の栄光を取り戻したように生き生きしている。演じるシュトロハイムは、実際に監督として多くの無声映画を手がけた人だという。 他に注目すべき出演者では、「十戒」などの名監督セシル・B・デミルが本人役で登場し、スワンソンと一緒にかなり長い芝居をするのが印象的。デミル監督本人が映画のスクリーンに登場するのは、本作が唯一かも知れない。「僕はノーマの父親のような年齢だよ」というセリフは、デミル監督自身が映画の変革の時代を乗り越えて来た事実を思いハッとする。 もう一人、ノーマのゲーム仲間として登場するのがバスター・キートンで、この人もチャップリン(ノーマの変装芸が絶品!)と並んで今も語り継がれる無声映画の喜劇スターである。僕はこの人が出た映画は「ライムライト」しか観た事がないが、無声映画時代のアクション喜劇を一度観てみたいと思った。 ノーマの劇中年齢は50歳で、1899年生まれのスワンソンとほぼ一致する。50歳は現代の感覚ではまだまだ若く、大豪邸に隠遁するなんて早すぎると思うが、映画がサイレントからトーキーに移り変わった時、時代の変化について行けずに失脚した映画人が多かった事は、2011年のフランス映画「アーティスト」でも描かれていた。 映画がトーキーに変わったのは1930年頃でノーマが30歳くらい。昔の感覚だと美人女優が主役の座から降りて、若いスターの引き立て役にシフトしていく頃か。時代の変革と女優人生の曲がり角が同時に来て、その事実を受け入れられぬまま20年が経過したというわけだ。 現代の僕たちが無声映画を観られる機会は、時代の風雪に耐えて生き残ってきたごく一部の名作を除けばほとんどない。大部分は映画館での上映終了の時点で役割を終え忘れられる運命だが、二度と観られない貴重な時代資料も多かっただろう。人類の膨大な文化遺産をどうやって残すかという課題は、映画に限らず音楽や文学・絵画といった芸術全般に当てはまる事かも知れない。

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