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サンライズ (1927)

SUNRISE

監督
F・W・ムルナウ
  • みたいムービー 31
  • みたログ 65

4.10 / 評価:29件

技術偏重

  • cyborg_she_loves_me さん
  • 2021年8月16日 18時02分
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

「サイレント映画」と皆さん言いますけど、厳密な意味でのサイレントじゃないです。映像に合わせて音楽や効果音が入る「サウンド版」です。台詞がないだけで、雰囲気は音楽で演出しているし、馬のいななき、群衆の騒ぎ、などはそれに似た効果音で表現されている。
 映像と音とのシンクロがここまでできているなら、トーキーは技術的には既に完全に可能です(ニュース映画などでは実際にトーキーが作られていました)。音で台詞を入れていないのは、技術的な理由ではなく、完全に確立していたサイレント映画の様式を壊さないためでしょう。

 だから、「映像だけで」ここまで表現するのは素晴らしい、と皆さん言いますが、いや実際には「音」で表現されてる部分はかなり大きいです。妻がにこやかな顔で歩いている背後に不気味な音楽を流すことで、夫の妻への隠れた殺意を表現する、といったことが現に行なわれています。

 とはいえ、確かに映像上の表現技法も、当時としては並外れているのも事実です。俳優さんたちのパントマイムの巧みさに加え、合成画面を多用して幻想的な雰囲気を演出し、当時としては破格の大規模なセットを作って町や路面電車や湖の中などのリアルな映像を作り出す技術は、確かに見事です。

 当時としては、ね。

 しかし、今の映画を見慣れた目で見てこの映画の表現に「心の底から」驚嘆する人がそんなにたくさんいるとは、私には思えません。
 この映画は、当時の映画で一般的だった映像を頭の中に思い浮かべて、それと絶えず比較しながら見るという、そういう見方をした場合に限って、人々を驚嘆させる映画だと思います。
 今の映画から得られる恐怖や、笑いや、共感や、感動を、今の映画から得るのとまったく同じやり方でこの映画から得ることは、もはやありえないと私は思います。

 非常に端的に言ってしまえば、当時の映画に関する知識が、頭を切ったら吹き出してくるぐらい頭にいっぱい詰まっている評論家タイプの人は、多分この映画に今でも驚嘆し、楽しめるのだろうなとは思いますが。
 今のごく一般的な映画ファンの皆さんには、まあそんなに面白くないと感じるかもしれないことを覚悟した上でご覧になった方がいいですよ、と私なら申し上げます。

 「当時の」数々の映画賞を受賞したのは、当然のことでしょう。
 が、「2012年の」英国映画協会の「評論家による史上最高の映画ベスト100」投票で5位に食い込んでいるというのは、評論家という種類の人々がどういう人々であるかをよく表わしているような気がします。
 評論家が口をそろえて絶賛している映画を見てもまったく面白くないという経験をしばしば私がする理由が、わかったような気がしました。

 私がこの「サンライズ」という映画をまったく面白いと感じない理由を、もうひとつだけ。
 この映画には、心理描写がまったくないんです。

 田舎で平凡に暮らしている男のところに、町から来た女が近寄ってきて、誘惑し、男に妻を殺せと言う。
 男は(ほんのちょっとだけ抵抗はしますが)ホイホイと女の言いなりになって(こんなにも可憐で愛らしい!)妻を殺そうとする。
 なんで?
 と誰だって思いますよね。
 男は以前から妻のどこかに不満があったのか? あるいは、町の女には何か特別に男の気を惹くような魅力があったのか? 妻を殺してもいいと思うほど、男がこの町の女に魅了された理由は何か?
 そういうことが、何も描かれていない。
 何の理由もないのに男にいきなり取り付いて妻を殺すようにあやつるなんて、この町の女はただの「魔女」にしか見えません。

 いや、監督は本気で彼女を魔女として描きたかったのかもしれません。妻とボートに乗って、妻を水に突き落とそうとしている男の顔は、まさしく何かに憑依された狂人の顔、化物の顔です。
 マジこわいです。
 ところが、そんな男がこぐ舟で、妻は無邪気に大喜びしている。いや、ふつうこんな顔した男、こわいでしょ? 疑うでしょ? 妻は、なぜそれでもなおこの男を愛するのか? この夫婦はそれまでどんな幸福な生活を送っていたのか?
 それも、何も描かれていません。

 自分を殺そうとまでした男を、他人の結婚式を見物している間に簡単に許してしまうところとか、とにかくこの物語、心理的にはまったく理解不能です。
 監督は、映像と音楽で観客を驚かすことにばかり神経を使っていて、登場人物の心理に深く分け入ることにはまったく関心をもっていません。

 技術偏重で心が空っぽなこういうタイプの映画を、私は好きじゃないです。

 参考までに、この映画は字幕は極限まで減らして言葉なしで表現することを目指しているので、日本語字幕なしでもほぼ問題なくわかります。そして、この映画の著作権は当然切れてるので、youtubeで誰でもタダで好きなだけ見れます。お金を払う必要はありません。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

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