ここから本文です

仕立て屋の恋 (1989)

MONSIEUR HIRE

監督
パトリス・ルコント
  • みたいムービー 111
  • みたログ 810

4.06 / 評価:165件

透明感のあるフランス映画

  • raz***** さん
  • 2018年9月9日 16時21分
  • 閲覧数 325
  • 役立ち度 0
    • 総合評価
    • ★★★★★

主人公は街の人から嫌われている犯罪歴のあるユダヤ人。
ユダヤ人といえば、愛を伝道するキリスト教に背を向け、
実利である金に執着する異端児というのが
むかしのヨーロッパでの認識であった。

その金に執着しているはずの彼が、窓越しに見えるアリスに恋しちゃう物語。
自分と対極にあるものへの憧れが彼の態度から読み取れるのだが、
しかし、窓からのぞく彼の視線は下界を見下ろすような、
年寄りが若者を見下ろす視線であった。



彼は孤独とはいえ、女を知らないわけではなく、
性犯罪歴もあり娼婦を買ったりもしている。
したがって彼は若い女性一般に対して幻想を抱くような初心な男ではない。

ところが、彼はアリスを特別視している。その理由は、毎晩のように
窓越しに彼女をのぞきみたからだと思われる。
のぞきみであるから当然彼女の言葉は聞こえない。
そのことが彼の想像力をかきたて、彼女を天使のような特別な存在へと
祀り上げることになったのだろう。

だから本来、彼女は殺人犯エミールの共犯者であるにもかかわらず
彼女は無実だと、主人公は信じ切ったのだ。



(あくまで主人公の主観によるものだが)ここに「先入観による犠牲者」という共通点が主人公とアリスの間に発生している。
主人公は他のユダヤ人の評判のせいで誤解されており、
アリスは殺人犯の恋人であるせいで誤解されている。(と主人公は考えている)

だから、主人公の認識においては、アリスにとっての最良策とはエミールへの恋を断ち切ることである。(主人公が他のユダヤ人たちが暮らす街から出たのと同様に)

したがって、主人公はエミールに捨てられたアリスに対して
自分と一緒に逃げようと提案したわけだ。

ただその考えは主人公の一方通行な幻想であってアリスの考えとは違っていた。主人公がアリスを守ろうと行動していたのと同様に、アリスもまたエミールを守ろうと行動していたのである。皮肉にも、愛するものを守るという点については2人は同一であった。

主人公の一方通行な幻想が崩れ去ったのは、
被害者のハンドバックが登場した時だ。

主人公は「愛するものを守る」という同一性においてのみアリスとつながっていたと、ようやく気づいたのだ。

そしてアリスは誤解されようが捨てられようが最後まで恋人を裏切ることはなかったのに対して、主人公は他のユダヤ人たちを裏切るかのように同胞の輪から逃げたわけで、ここに「信頼と裏切り」という2人の相違点が生まれた。



ラストシーンでは、住民たちが見上げる中、主人公が屋上で足を滑らせて
パイプにしがみつき今にも落ちそうな場面があった。

主人公は非ユダヤ人たちが住むこの街の住人として、街に溶け込みたいと本心では願っているのに、現実は違っていた。そのためこの街にいながら孤独を選んだ。その彼の状況が、屋上にいる彼の姿ではなかろうか。

本来ならば、彼自らが階段を下りて住人の輪に入る必要があったのに
勇気がなかったからかわからないが、
彼は屋上から住人を見下ろしていただけだったのかもしれない。

そんな彼を住人たちが立っている地上へと落下させたのは、
「愛するものを守る」というキリスト教の教えにつうじる彼の意思であった。
愛を貫く自己犠牲によってようやく彼は住人の輪に入れたように思う。

落下する主人公を、アリスは窓から見下ろした。これは窓からのぞいていた主人公と同じ構図であり、アリスと主人公が「愛するものを守る」という同一性を持っていることの映像表現だと僕は考える。

主人公は理想の存在をただ窓から見ているのではなく、
階段を降り、現実の中に自分の居場所を見つける努力をすべきだった。
そういう結論になるのかな。



この映画は主人公の素性だけでなく、アリスやエミールの素性についても
その全容を説明することなく断片的に描いているため非常に透明感があり
解釈を観客に自由に任せている感じがする。
「愛と裏切り」というポイントさえ押さえればどんな解釈も正解なのだろう。

それが観客にとって、演技や映像を注視する動機になっている。
映画とはなんだという問いに対する1つの答えがこの作品だ。

詳細評価

物語
配役
演出
映像
音楽

イメージワード

  • 未登録
このレビューは役に立ちましたか?
利用規約に違反している投稿を見つけたら、次のボタンから報告できます。 違反報告
本文はここま>
でです このページの先頭へ