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中国とアメリカの“いま”が表れたサンダンス映画祭、マイケル・ジャクソンの衝撃ドキュメンタリーも物議

Movie Walker

2019年2月12日(火) 9時30分 更新

審査員賞オリジナリティ賞を受賞した『ウィーアーリトルゾンビーズ』

審査員賞オリジナリティ賞を受賞した『ウィーアーリトルゾンビーズ』

[c]Courtesy of Sundance Institute.

雪に覆われたユタ州パークシティにて約10日間にわたって行われたインディペンデント映画の祭典、サンダンス映画祭が閉幕した。上映された121本の長編作品と73本の短編作品は、14259本の応募作品から厳選された作品。その選りすぐりの上映作品の中から、観客賞など28の賞が授賞された。

日本映画の『ウィーアーリトルゾンビーズ』(6月公開予定)がワールドシネマ・ドラマティックコンペティション部門にて審査員特別賞オリジナリティ賞を受賞した。両親を亡くし、ゾンビのように感情をなくした子どもたちの物語を、テレビゲームのような電子音とネオンのような映像で描いていく作品は、新しいものが好きなサンダンスの審査員や観客にも受け入れられたようだ。壇上に上がった長久允監督は、「アイラブユー! サンキュー、サンダンス!これは僕の初めての長編映画で、すべてを懸けて作った作品です。まず自分自身が楽しんで作りました。若い世代に、絶望と戦う力を与えられたらと思います」と挨拶した。

デイミアン・チャゼル監督の『セッション』(14)は14年のサンダンス映画祭USドラマ・コンペティション部門において、観客賞と審査員グランプリを授賞している。今年、その賞に値するUSドラマ・コンペティション部門の審査員グランプリは、『Clemency(原題)』に贈られた。死刑制度が執行されている刑務所長の心理的な変化を描き、鑑賞後に複雑な感情を残す作品だ。同部門の観客賞は、『Brittany Runs a Marathon(原題)』。自堕落な生活をするブリトニーが、NYマラソンを走るまでの日々を軽妙なコメディで描いた作品で、すでにアマゾン・スタジオが14ミリオンドル(約14億円)で配給権を取得している。

USドキュメンタリー部門では、昨年の中間選挙において最年少で初当選を果たしたプエルトリコ系移民のアレキサンドリア・オカシオ=コルテスら4人の女性候補者を追ったドキュメンタリー『Knock Down The House(原題)』が受賞。監督のレイチェル・リアーズはこのドキュメンタリーを作るためにクラウド・ファンディングで28000ドルを集め、彼女たちの選挙戦をカメラに収めた。結果的には、オカシオ=コルテス以外の3人の当選は叶わなかったが、彼女たちは次の選挙に向けてもう動き出していると言う。今作はNetflixがドキュメンタリーとしては破格の10ミリオンドル(約10億円)で世界配給権を取得している。

また、審査員が選ぶ賞には絡まなかったが、上映されると共に話題になったのは、NY出身の中国系アメリカ人映画作家ルル・ワンによる『The Farewell(原題)』(A24が配給権取得)。中国系移民のビリー(オークワフィナ)は、中国に住む祖母が末期ガンに冒され余命3か月と聞き、中国へ駆けつける。そこでは、日本に住むビリーのいとこの結婚式が開かれ、祖母に知られないように家族が集まっているのだった。

『クレイジー・リッチ!』『オーシャンズ8』(ともに18)といった作品に出演してきたオークワフィナも中国系アメリカ人の父親と、韓国系移民の母親を持つ女優であり、ワン監督及び主人公のビリーと同じような2つの祖国の文化衝突を経験している。移民の国アメリカのいまを表した作品だ。

同じく中国とアメリカの文化衝突を描いた『American Factory(原題)』(Netflixが配給権取得)は、GM倒産後のオハイオ州にできた中国系企業の工場における中国人経営者と従業員、そしてアメリカ人従業員を追ったドキュメンタリー。『American~』のスティーブン・ボグナーとジュリア・レイシャート監督は、USドキュメンタリー部門監督賞を受賞している。トランプ政権の対中貿易摩擦が問題となっているいま、重要な作品と言えるだろう。USドキュメンタリー部門審査員グランプリに輝いた『One Child Nation(原題)』(アマゾン・スタジオが配給権取得)は、中国の“一人っ子政策”施行時代に作られた家族の姿を追った作品であり、中国のいまを捉えた作品が多く上映されたのも時代を表していると言えるだろう。

また、アマゾン・スタジオが14ミリオンドルで購入した『The Report』は、イラク兵士拷問捜査の特別調査官の実話を描いている。調査官役のアダム・ドライバーと、調査を主導したダイアン・ファインスタイン上院議員を演じたアネット・ベニングに賞賛が集まった。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)や『君の名前で僕を呼んで』『ゲット・アウト』(ともに17)といった作品がサンダンス映画祭から徐々に評判を高めてアカデミー賞まで登りつめていった過去例を考えると、これらの作品が2020年のオスカーをねらう存在となるのは想像に易い。

また、昨今のドキュメンタリーブームに比例するように、時事問題を扱ったドキュメンタリーも多く上映された。ハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行を告発した『Untouchable(原題)』、トランプ政権の首席戦略官兼上級顧問だったスティーブ・バノンがホワイトハウスを追放された後の政治活動を追った『The Blink(原題)』、故マイケル・ジャクソンの幼児虐待疑惑を描いたドキュメンタリー『Leaving Neverland(原題)』は遺族の反論を受けている。

今年のサンダンス映画祭で話題となった作品は、通常の劇場公開を行う配給会社よりも映像配信会社が素早く手に入れている印象だった。潤沢な資金力や、迅速な世界公開がインディペンデント映画製作者にとっても魅力的なのは明らかだ。映画祭の情報も上映された映画の批評もインターネットで簡単に手にはいるようになり、世界のどこにいても情報格差が解消されている。同じように、映画も世界同時配信が当たり前となる時代はすぐそこまで来ている。映画祭を運営するサンダンス・インスティチュートを設立したロバート・レッドフォードが表舞台からの引退を表明したのも、映画祭のあり方が大きく変わってきたからなのかもしれない。(Movie Walker・取材・文/平井伊都子)

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