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希望など、どこにもない『バスは夜を走る』

へらへら眼鏡
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美しいものラブ。尊敬する監督はパク・チャヌク、2017年のベスト映画は「お嬢さん」。2018年のベス...

『バスは夜を走る』の副題は「CONFLICT DOESN'T CHOOSE ITS VICTIMS」(争いは犠牲者を選ばない)。

インドネシア・アチェ州で国からの独立をもとめるアチェ人による、アチェ独立運動をモデルにしたロードムービーだ。

架空の町・サンパル行きのバスは人々を乗せ、夜通し走る。いかつい風貌で陽気に仕事をする車掌の男は字が読めない。乗客の気の強そうな女の子のことを、ちょっといいなと思っているが、男連れではやくも失恋しそう。運転手の年配の男は、そんな車掌を、息子のようにどつき叱りながらもかわいがっている。

今夜も、いつもと同じ夜になるはずだった。

本作はボロボロの古いバスが、基本的には暗闇の中をひたすら朝の到着まで走っているのを撮っているだけだ。しかし、すぐにさまざまな階層の国民をのせた、インドネシアという国を描いた作品なのだと気づく。バスの窓枠を縁取るLEDの赤と青に点滅するライトが、ときに美しく、ときに恐怖をあおる、絶妙な効果を生んでいる。

深夜バスは道中、軍、サンパル独立派、それから「知られざる人々」と遭遇する。乗客の記者も、村の名士も、老婆と孫娘も、研修医も、若いカップルも、目の不自由な人も、NPO職員も、等しく検閲され、侮辱され、時には殺され、地獄絵図のような旅になっていく。そして戦争が生んだ悪魔とも言うべき「知られざる人々」が乗り込んでくる。そのあまりにもサディスティックな所業に、乗客の怒りが爆発する......。

「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」での上映後に監督であるエミル・ヘラディ氏にお話を伺うことができた。監督はこう語る。

写真:河田唱子

「本作における『知られざる人々』とは軍と独立派両方から利益を得ており、できるだけ争いが長く続くことを願っているという実態不明の人々のことです。紛争地帯には必ずそういう人たちは存在します」

サンパルを架空の町に設定にしたのは「どんな争いにも共通する普遍的な真実を描きたかったから。また、映画を制作する上での政治的な難しさがあった」からだという。

さらに、映画の資金集めには5年の歳月をかけ30万ドルを集めたとか。こんな映画は誰も見ないとほうぼうで言われ、大変苦労したそうだ。

おなじくインドネシアを舞台にした映画に2012年制作の『アクト・オブ・キリング』がある。あの作品は数多くのインドネシアの映画人が協力したそうだが、クレジットには一切名前が掲載されていない。そのような情勢の中でこの作品を作り上げた監督に並々ならぬ情熱を感じた。

最後のカットは、ジャワの廃虚で撮影。
「ビジュアルを超現実的にしたかった。日本のツナミのイメージも参考にした」と監督は言う。希望の象徴だった愛らしい孫娘の亡骸を老女が胸に抱き、崩壊したサンパルの町中へ、わたしたち観客を置き去りにし、歩き去っていく。

『バスは夜を走る』は「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」で鑑賞が可能(9月20日、9月22日に上映予定)。アジア映画に焦点をあてたユニークな映画祭はキャナルシティ博多で開催(9月23日まで)、全作品に日本語・英語字幕付き。詳しい上映スケジュールなどは、オフィシャルHPへ。映画館の外に出た後は、中洲の猥雑(わいざつ)な雰囲気を含めて味わえるはず。

アジアフォーカス・福岡国際映画祭
公式サイト(外部サイト)
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美しいものラブ。尊敬する監督はパク・チャヌク、2017年のベスト映画は「お嬢さん」。2018年のベストは『タクシー運転手』か『アイトーニャ』になりそう。人生で一番繰り返し観た映画は『タイタニック』最近観てよかったのは 『ラジュテ』。最近、自主制作映画がきになる。

記事はここで終わりです。

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