『負け犬の美学』の連戦連敗ボクサーと無敗王者メイウェザーの意外な共通点

カッコイイ男の生き様が描かれた作品に胸が高鳴る「一本気なポプコニスト」。生涯ベストは、パチーノ&デ・...
49戦13勝3分33敗。『負け犬の美学』の主人公は、まさに「負け犬」のような戦績を刻む中年ボクサー。
50戦50勝無敗。5階級制覇王者フロイド・メイウェザーは、完全無欠のレコードを記録した実在のプロボクサー。
フィクションとノンフィクションの違いこそあれ、両者には50戦目を引退試合とした共通点がある。
劇中のボクサーのスティーブ(マチュー・カソヴィッツが熱演)は、40代半ばを過ぎてもボクシングにしがみつきながら、家族をなんとか養っている。体重が自身の階級の上であろうが下であろうが、プロモーターからお呼びが掛かれば、いつでもリングに上がる。スティーブは、そういう男だ。そんな彼にも妻との約束があった。通算50試合を戦い終えたら引退をすること......。

(C) 2017 UNITE DE PRODUCTION - EUROPACORP
本作で長編デビューを果たしたサミュエル・ジュイ監督は語る。
「スティーブは無名の男だ。実際、大半のプロボクサーは栄光を味わえない。しかし、彼らがいなければプロボクシングは存在していない。僕にしてみれば、彼らこそボクシングの神髄だ」
つまり、敗者にスポットライトを当てた映画なのだ。試合に勝った負けただけのボクシング映画とは一線を画している。だから、スティーブの引退試合は『ロッキー』(1976年)のようなドラマチックな展開にはならない。
原題は『スパーリング(SPARRING)』。スティーブはチャンピオンとのスパーリングを通じて、ボクシングの美学を伝承する。連戦連敗のボクサーの視点に立った、セリフを言い放つシーンがある。
「負ける者がいるから、おまえのようなチャンピオンがいる」
負け犬の遠ぼえのように聞こえるかもしれないだろう。しかし、監督が話したように、ボクシングの真実を突いてもいる。敗者を踏み台にして王者は誕生するのだ。
さて、冒頭で紹介した負けたことがないプロボクサーのメイウェザーはご存じだろうか?
2017年8月26日、メイウェザーは格闘家のコナー・マクレガーとボクシングルールで戦い、当然のように勝利を収めた。この試合こそが「50戦目」だった。しかし、華々しいはずの一戦は、金もうけのためだけの「イージーファイト」と揶揄(やゆ)されもした。そんなメイウェザーはファイトマネー約385億円を手にして、戦いの舞台を後にする。
では、スティーブの「50戦目」は劇中でどちらに転がったのか。引退試合でも勝てず「50戦13勝3分34敗」でリングから去ったのか。「50戦14勝3分33敗」で有終の美を飾ったのか。その答えは、スティーブの背中が雄弁に語っていた。
『負け犬の美学』Yahoo!映画 作品詳細ページへ

カッコイイ男の生き様が描かれた作品に胸が高鳴る「一本気なポプコニスト」。生涯ベストは、パチーノ&デ・ニーロが共演した『ヒート』。