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リアルとファンタジーの境界線『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

スーパーネイチャー
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『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』 予告編

日本人にとって銃声は紛れもなく非日常のファンタジーだ。ところが、銃声が日常茶飯事だという映画がある。

2016年に日本公開された『ボーダーライン』は、銃声がリアルに描かれている。ドラッグカルテルと戦うためにメキシコとの国境を隔てて繰り広げられる攻防には、常に臨場感と緊迫感が漂う。同様のテーマで『トラフィック』(2000年)という名作があったが、それを一層ドライに現場に肉薄した描写のみで描ききっている分、『ボーダーライン』シリーズの方は痛みが伴う。

今回紹介をするのは、その続編『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』である。巨大な麻薬戦争に巻き込まれた、一兵士の物語である。その兵士をベニチオ・デル・トロが演じた。

(C) 2018 SOLDADO MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

兵士だからこそ見える現場、兵士だから従わねばならない命令、そして理想と現実の葛藤。そういうものが描かれていると期待していた......。結果は肩透かしに終わったと言うべきだが、その内容が実に惜しく、語らずにはいられない作品と言える。

本作をシリーズと書いたのは、「3」の制作も既に決定しており、どういう結末を迎えるのかが気になる。最終的な評価は3作目で下すべきだが、今回は限りなく名作に近く、けれどそのラインを越えられなかった本作を語りたい。

まず前作を振り返ると、ドラマ性を極力排除し、ドキュメンタリーに近いストーリーを、しかしドキュメンタリーでは得られない映像美で表現したことが話題を呼んだ。

ドキュメンタリーに近い銃撃戦といえば、『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)がある。緊張感が半端ない作品だったが、『ボーダーライン』はあえて、完璧なリアルではなく、リアルとファンタジーのギリギリの境界線を攻めたことを称賛したい。

麻薬戦争はよく映画の題材にされており、見慣れたシーンも多いはずなのにあえて、無機質な空撮(ドローン目線)や、妙にキマッた構図で見せ付けてくれた。ここでもまた、ファンタジー的に描きたいという思惑が活きている。

続編でもメキシコシティを紹介するために、摩天楼でぎっしりと埋め尽くした未来都市のような絵作りをしたことは素晴らしい。その直後の、地面を這う弁護士に容赦なく銃弾を浴びせるベニチオの描写とのコントラストなど、前作を意識しつつ、超えてやろうという意気込みが伝わってくる。

また、麻薬カルテルを牛耳るボスの娘を紹介するシーンも城のようなキレイな校舎を映したかと思うと、2人の少女が互いの髪の毛を引っ張ってもつれ合う泥臭いケンカに移行する。キレイは汚い、汚いはキレイとは『マクベス』の言葉だが、それを地で行くような描写はあっぱれと言いたい。

このボスの娘、イザベル(イザベラ・モナー)がとにかく素晴らしい。ケンカの後、校長に呼ばれても顔色一つ変えず、自分を退学にできないことをほのめかす。事実、無罪放免となった少女はその足で帰宅しようとする。そこをベニチオ率いる特殊部隊に誘拐されるのだが、少女は細かい表情だけでさまざまなことを物語る。

誘拐犯を刺激しないよう従順なフリをしながらも、隙あらば目隠しを取ろうともする。同じ特殊部隊に救助されてからも、相手に心を許さず、早い段階からこれが自作自演だったのではないかと疑う様子が見られる。そんな少女がベニチオと交流を深めていく後半は、あの名作『レオン』(1994年)を想起させる本作の見所の一つになっている。

(C) 2018 SOLDADO MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『レオン』どころか前作にも及ばない内容になったのは、兵士と少女の関係性に起因するところが大きい。兵士である以上、上からの命令には、それが不本意なものだったとしても従うべきだ。しかし、ベニチオは劇中で命令に従うそぶりさえしない。それもそのはず。最初にもらった指令が「好きなようにやれ」だからだ。

途中で誘拐作戦を放棄することになり、保護対象だった少女を抹殺せよとの指令が下る。その理由も、対カルテルというわけではなく、特殊部隊の保身のためという理不尽なもの。ベニチオは迷わず断ることを選択する。「いや、そこは葛藤しろよ」と突っ込まずにはいられない。少女こそ、ベニチオの家族を殺したボスの娘だからだ。報復のために兵士に身をやつしたベニチオにとって、最高のターゲットのはず。なぜ少女を守るのかの説明がなく、今までの話が一気にテーマを失っていく。

「娘はもう殺した」と虚偽の報告をすることで、上の目を欺き、カルテルに一人でケンカを吹っかける、くらいにまで振り切るなら分からなくもない。ところが「娘をボーダーライン(国境)に連れて行くから、保護してくれ」と命令に逆らっておいて、結局は上官に頼る始末。いや、現実はそんな甘くないことを、一番体現しているのがベニチオだよね? と首をかしげたくなってしまう。

それでも映像は美しいし、少ないセリフでよくここまで丁寧に状況描写できるなと思う。少女と2人で旅をするシーンは、緊張感の中に救いを感じられる優しさがある。それが全て、彼女を保護する物語になったことで、ファンタジーと化してしまった。

利害関係が異なる大人と子供が、目的地を目指して旅をする、クリント・イーストウッド監督の『パーフェクト ワールド』(1993年)という映画がある。この物語もところどころファンタジーを織り交ぜつつも、肝心な決断をする場面はリアルを優先していた。結末も決して爽やかではないが、だから胸に残るものがある。

しかし、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』はファンタジーを優先するがあまり、「そんなのアリ?!」的な結末を迎える。ただ、後半の出来だけで評価を決めてしまうにはあまりに惜しい、原石の美しさがあふれている。

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
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