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無駄な装飾を省いたむき出しの詩のような『ビューティフル・ボーイ』

うぱ
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ジャンル問わず、ただひたすらに洋画を見ている。ゆるっと毒は吐くけれど、それもまた映画の楽しみ方。 ...

2019年4月12日公開『ビューティフル・ボーイ』 予告編

父から息子への愛情が足りなかったわけでもない。
ある日突然、息子は薬物中毒という落とし穴に落ちる......。

自然豊かな環境と、愛情あふれる家庭に育ったスポーツ万能で秀才な息子ニック。
そんな息子が、夜更けになっても帰宅しない事に気が気ではない父デヴィットは眠れずに息子の部屋をのぞく。
ベッドには寝息を立てているはずの息子はいない。

本作『ビューティフル・ボーイ』は、薬物中毒に陥った息子を父親視点で見つめた作品で、Netflixオリジナルドラマ『13の理由』の脚本家のニック・シェフの半生を基にしている。父親役には『フォックスキャッチャー』で2015年アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたスティーヴ・カレル。息子役には『君の名前で僕を呼んで』で2018年アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたティモシー・シャラメという実力派をそろえ、観に行く前から見応えを感じずにはいられなかった。

(C) 2018 AMAZON CONTENT SERVICES LLC.

荒れ果てた息子の今と、見守ってきた幼き日の息子の過去を交えながら話は進むのだが、どうにも「映画」とは言い切れない感覚に陥った。
脚色がほとんどされていないような淡々とした流れの中に、情緒不安定で激高する息子ニックと愛する息子のためにありとあらゆる手を尽くすものの、改善がみられず焦りばかりが募る父デヴィットの心境がとてもよく映える。

ティモシー・シャラメの美しさと映像美がドキュメンタリーではない事を伝えているのだが、「ただの親子愛の泣ける映画にしたくなかった」という監督の主張をヒシヒシと感じる。これは「薬物中毒」という病気の話なのだ。

「薬物を使用すると、三大欲求の他にもう一つ欲求が覚醒してしまう感覚」と聞いた事がある。
「眠くて眠くてどうしようもない。ちょっと寝かして...」
この感覚は大多数が経験した事があるが、「永遠に寝ちゃダメ」って言われていることだと考えると「依存症=意志の弱さ」とはまた話が違ってくる。

今をときめくティモシー・シャラメの起用によって、若い子たちは薬物中毒という病気をスクリーンで目の当たりにするだろうし「薬物に手を出すなんて非行が原因でしょ?」なんて人ごとのように考えていたことを改めるきっかけにもなる。「薬は危険!」と頭ごなしに否定するわけでもなく、どうしようもなく壊れていくニックにただただ目が離せなかった。

劇中でニックが好きな詩としてチャールズ・ブコウスキーの"Let It Enfold You"を朗読する。その詩はこんな一節ではじまる。


Either peace or happiness,
let it enfold you

when I was a young man
I felt these things were dumb,
unsophisticated.
I had bad blood,
a twisted mind,
a precarious upbringing.

I was hard as granite,
I leered at the sun.
I trusted no man and especially no woman.
※Let It Enfold You から一部抜粋

(和訳)
平和か幸福か
あなたを包もう

私が若い頃
純粋さが愚かだと感じた
血筋の悪さ
ねじれた心
躾の無さ

花コウ岩のように頑固だった
太陽(明るい世界)を横目で睨んだ
誰も信用していなかった 女はもっと(特に)だ
※ 劇中の字幕(和訳)と異る点があります。

チャールズ・ブコウスキーはお酒好きのワイルドなおじさん詩人である。
この詩を含め、彼は恥ずかしいくらい真っすぐで荒々しい感情と目に映る一瞬をそのまま言葉にするのが印象的だ。

つまり本作はブコウスキーのように、無駄な装飾を省いたむき出しの詩のような作品なのかもしれない。


映画『ビューティフル・ボーイ』 2019年4月12日公開

映画『ビューティフル・ボーイ』
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うぱ
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ジャンル問わず、ただひたすらに洋画を見ている。ゆるっと毒は吐くけれど、それもまた映画の楽しみ方。

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