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【PR】描写も演技も大胆を極めつつ、なぜか心地よく酔う『彼女』の映画的マジック

斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い...

コミックを原作に、女性同士の愛を描く......。それだけ聞くと、ソフトで耽美的なイメージが頭をよぎるかもしれない。しかし原作(中村珍の「羣青(ぐんじょう)」)を知っている人にとっては、映画化はハードで挑戦的な作業になると予測できたはずだ。

結果的に映画『彼女』は、どうなっているのか? 激しく切実な運命に真正面から向き合いながら、映画的な呼吸、ムードに満ち、心をわしづかみにされ続ける時間が用意されていた。

高校時代に好きになった相手がDVを受けていると知り、その夫を殺害するという基本ストーリー自体、かなり強烈である。しかしその強烈さから一歩も引かないという作り手側の覚悟が、作品全体にみなぎっている。作り手というのは監督や脚本家だけではなく、演じる俳優たちも含まれており、バイオレンス描写はもちろん、ラブシーンも、呆気にとられるほどに赤裸々。主演の2人、水原希子と、さとうほなみが文字どおり、全身全霊を傾け、「躊躇」という言葉など入り込む余地のない演技で応えている点が、ハードルが高い原作の映像化に成功した、大きな要因のひとつだ。

Netflix映画『彼女』Netflixにて4月15日より全世界同時独占配信

高校時代の激しい想いが蘇り、突発的に、しかし計画的に犯罪に走るレイ。演じる水原希子は、どこか危うげながら、自身の思いを貫き通し、相手の心を射るようなまっすぐな視線で、圧倒し続ける。しかもセリフは過激だ。そして夫のDVによって全身あざだらけの日常を送っていた七恵。こちらのさとうほなみは、一見、頼りなさげのようで、じつは相手の心を操ってしまう小悪魔的な魅力をもつ、難しい演技に挑んだ。高校時代のシーンを演じる2人も、そっくりではないのにキャラクターをしっかり受け継いだ好演をみせ、違和感がない。

Netflix映画『彼女』Netflixにて4月15日より全世界同時独占配信

このように描写も、演技も、単にテンションが高いだけなら、よくあるパターンだが、『彼女』が観ているこちらの心に浸透してくるのは、演出のマジックが効果的にはたらいているから。冒頭、レイがバーに入っていくシークエンスを約3分のワンカットでとらえた直後、彼女と相手のアップに切り替えるなど、「映画らしい」つなぎで一気に引き込んでいく。

極め付けは、音楽の使い方で、「スマイル」「ラヴフール」といった誰もが耳にしたことのある名曲を軽やかにかぶせることで、ハードな物語なのに観ていて心地よくなっていく。この不思議な感覚こそ、映画的ではないだろうか。だから、作品の流れにじっくり身を任せたくなるのである。

細野晴臣が手がけたテーマ曲も含め、音楽を効果的に使ったシーンの転換は、高校時代と、逃避行を続ける現在の時間をスムーズに行き来させる。重要なポイントで使われるYUIの「CHE.R.RY」は、水原希子とさとうほなみが選曲したということで、役と俳優がひとつになる瞬間を目撃できるのだ。

Netflix映画『彼女』Netflixにて4月15日より全世界同時独占配信

犯罪を発端にした、あるいは犯罪者カップルの逃避行ムービーといえば、『俺たちに明日はない』から『トゥルー・ロマンス』、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』まで多くの名作が作られてきた。女性2人の逃避行の映画といえば、『テルマ&ルイーズ』がすぐに頭に浮かぶ人は多いだろう。これらの作品は、基本的に切羽詰まった状況で、いつかは逃避行が終わる哀しみを全編に漂わせつつ、主人公たちの行動は妙にポジティヴで豪快だったりして、そのアンバランス感が映画的興奮を盛り上げていた。逃避行を通じて深まる絆と、残されたわずかな幸せな時間。2つの要素が反比例を起こして、観る者の心を締めつけるのだ。

このタイプで、日本映画で成功した例は少なく、その意味でも『彼女』は画期的な作品と言えそうだ。女性同士ということで『テルマ&ルイーズ』との共通点も発見しながら、レイと七恵の、予想を次々と裏切って進むロードムービーに身を任せるのもいいかもしれない。

『彼女』Yahoo!映画 作品詳細ページ
Netflixにて4月15日より全世界同時独占配信

斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い頃からあこがれの国だったイギリスの映画が大好物。ベスト1本挙げるなら『ザ・コミットメンツ』。

記事はここで終わりです。

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