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【PR】大切な想いを過去に置き去りにした大人は、いったいどこへ向かうのか

斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い...

Netflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』独占配信中。

現在の自分は、本当に「なりたかった」自分なのだろうか。そして、心から好きになった人は、今も近くに寄り添ってくれているだろうか......。

ある程度、年齢を重ねて「大人」になったはずなのに、心の一部はどこか過去に置き去りになっている。多くの人が思い当たる、この感傷。テレビ業界の美術制作会社で慌ただしい日々を送った本作の主人公・佐藤は、そんな感傷に苛まれている。2020年で、46歳。それなりに仕事では成功しているようだが、心にポッカリと穴が開いたその姿に、誰もが自分を重ねずにはいられない。そこが作品の大いなる魅力だ。

燃え殻による同名の原作。その基本ストーリー、そして伝わってくる情感は、今回の映画版でも忠実に再現された印象。つまり映画化としては成功したと感じる。

原作では、佐藤が40代になった「現在」を軸に、彼の行動や感情に合わせて、物語が過去と行き来する。そのタイミングはランダムだ。この映画版では、2020年に始まって、そこから1995年へと向かう。時間がどんどん過去へと戻っていく流れは、観ていてわかりやすい。小説と映画。それぞれの特性を考えたうえでの、巧みな変更である。時間が逆行することで、映像で伏線も回収されていく。

なぜ、1995年に行き着くのか。そこに、佐藤の人生の原点があるからだ。その原点とは「恋」だ。40代の男の人間ドラマである本作だが、基本は純愛ストーリー。その原点の恋を、佐藤も、映画自体も探し求めて、さまよっていく感覚だ。

原点が1995年ということで、90年代カルチャーが効果的に使われるのが、本作の魅力のひとつ。小沢健二、MAYA MAXX、タワーレコード、ポケベル、MDプレイヤーなどが重要なポイントとなり、1999年に人類滅亡というノストラダムスの大予言も絶妙なスパイスとなる。今はなきシネマライズが、映像で再現されるのもうれしい。90年代にノスタルジーを感じる世代のツボを刺激し、当時を知らない人には新鮮なアイテムとして映る。こうした効果は、映画ならでは。

サブカルネタが頻出するあたりは、ヒットの記憶も新しい『花束みたいな恋をした』を連想させるが、ネタの使われ方と効果、作品のトーンはまったく異なるので、比較するのも楽しいだろう。

原作が発売されたのは2016年で、そこから1995年に戻る、約20年の幅なのだが、この映画版は2020年→1995年と25年間の変遷。それを一人で演じ分けた森山未來の力量には恐れ入るばかり。とくに1995年のパートでは、小沢健二かと錯覚するような瞬間も表出されて、驚いた。

同じく友人役の東出昌大も25年間の変化を表現しているが、違和感がないのは、全体の映像がやや暗めだからかもしれない。佐藤の自宅や働く会社など、日常的な「明るさ」は意識的に避けられた演出。そして、やたらと夜のシーンが多い。しかしその、やや暗く沈んだムードが、佐藤や、周囲の人物の心情を象徴しているようでもある。そして往往にして、切ない記憶とは、このような色合いだという気にもさせる。劇場で観る場合は別として、配信で観る際には、この画面の明るさを自分で調整できるのも事実。その調整によって、作品の印象は多少、変わってくるはずで、そこはちょっと本作の興味深いところ。雑多な光が輝くラブホテルのシーンなど、明るさによって伝わるものも違ってきそうだ。

Netflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』独占配信中。

原作を読んだ人にとって最も気になるのは、佐藤の恋の相手、かおりを演じるキャストだったかもしれない。原作の表現はあえてここには書かないが、伊藤沙莉という実力派を得て、見事にハマった感がある。この、かおりの描写など、未読の人は映画版を観た後にぜひ原作を手に取って確かめてほしい。

そのかおりの「わかりきっているなんて意味がない。わからないから、いい」というセリフが示すように、大人になったからといって、何もかもが「わかる」わけではないことを、大人になりきれないと自覚する人に、優しく伝えてくれる本作。とくに映画版は、新型コロナウイルスに向き合う2020年までリアルに描かれるので、逆に未来への希望を漂わせている気がする。なんとも不思議な余韻が、いつまでも続く作品である。

Netflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、全世界独占配信中。

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斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い頃からあこがれの国だったイギリスの映画が大好物。ベスト1本挙げるなら『ザ・コミットメンツ』。

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