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【PR】早くに失われたミュージカルの才能。時を超えて最高の作品として甦った

斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い...

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ブロードウェイ・ミュージカルを愛する人なら、その名前の響きに、リスペクト、そしてちょっぴり哀しさを感じるに違いない。それは、ジョナサン・ラーソン。

もし名前にピンとこなくても、代表作『レント』を知っている人は多いだろう。日本でも何度も上演され、2005年には映画化(『RENT/レント』)もされた、ミュージカルの名作だ。その作詞と作曲、脚本、要するに作品全体をクリエイトしたのが、ジョナサン・ラーソン。NYのイーストビレッジで暮らす若者たちの切実な状況と人間関係を描くという、従来のミュージカルとはまったく違うアプローチの『レント』は、1996年の2月にオフ・ブロードウェイで開幕し、その後、ブロードウェイへ進出。トニー賞を10部門で受賞し、12年ものロングランを記録した。

この『レント』が、作品のクオリティとともに「伝説」となったもうひとつの理由は、ジョナサン・ラーソンが1996年の1月25日、プレビュー公演初日の前夜にこの世を去ったこと。その後の『レント』の大成功を見ることがなかった彼の無念、そして生きていれば、さらに傑作を連発したにちがいない才能に対し、ミュージカルファンは今も切ない思いにかられるのだ。

そのラーソンが『レント』より前に作ったミュージカルを映画化したのが本作。ラーソンの自伝的内容なのもさることながら、監督を務めたのが、リン・マニュエル・ミランダ。『ハミルトン』『イン・ザ・ハイツ』といった近年の傑作ミュージカルをクリエイトしてきた才能の、映画監督デビュー作とあって、何から何までミュージカルファンには胸アツなのである。

そして仕上がりは、これ以上、何を求めていいのか、という最高レベルのミュージカル映画となっていた。

舞台ミュージカル、中でも現実的なストーリーの作品を映画に移行する場合、舞台版以上に、歌のパートが唐突に感じられるケースが多い。観客は舞台の方が"非日常"の世界を受け入れやすいからだ。映画の方が、よりリアリティを気にする人が多く、だから「突然、歌って踊り出す」ミュージカル映画に違和感をもつ人もいる。

しかしこの作品は、ジョナサン・ラーソンが創作した作品を発表するという「ワークショップ」が大枠になっていて、そこに彼の日常が織り込まれるスタイル。日々の感情が、ワークショップで歌われるナンバーと重なったりもするので、突然、歌い出す違和感は果てしなく少ない。つまりミュージカル映画としては、最高のシチュエーション、ということ。

そして1曲目の「30/90」(30歳になるまでに名作を世に出したい主人公=ラーソンだが、間もなく30歳になるという焦りをぶつけたエネルギッシュなナンバー)で、観ているこちらは一気に引き込まれる。その後の曲も含め、耳に残るキャッチーなメロディに、ジョナサン・ラーソンの類まれな作曲センスを実感できるのだ。

リン・マニュエル・ミランダの演出も、シーンの切り替えの絶妙さ、テンポのよい編集で、ミュージカル映画のツボを得ており、最後までテンションが途切れず、しかも主人公の心情を曲とともに丁寧にすくいとっていく。長年、ミュージカルを好きだった人にとっては、信じがたい「レジェンド」たちが、あるシーンに特別出演しているのだが、そこにも愛が溢れていて、感動してしまう。

ミュージカル初挑戦のラーソン役、アンドリュー・ガーフィールドは予想外の歌唱力を披露しつつ、30歳を目前にして夢と将来の間で苦悶する姿を情熱的に演じ、やや極端な感情表現もミュージカルの一部として観れば、すんなり共感させる。その共感は、職業を超え、何かを夢みたことのあるすべての人の心を揺さぶり、普遍的テーマへとつながっていく。

舞台となっているのは、1990年のニューヨークで、当時、ブロードウェイで多くの才能が失われたHIV感染の問題も出てくるが、それが30年の時を超えて、2021年のコロナ禍の世界とリンクするのは偶然とはいえ、運命的でもある。

そして繰り返すが、35歳でこの世を去ったジョナサン・ラーソン(死因は大動脈解離)が、もし生きていたらどんな名作の数々を届けてくれたのか。今となっては叶わない願いで、映画を観た後もしばらく胸を締めつけてくる。

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斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い頃からあこがれの国だったイギリスの映画が大好物。ベスト1本挙げるなら『ザ・コミットメンツ』。

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