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【PR】名監督、12年ぶりの作品は、男らしさで武装した主人公の真意に激しく心ざわめく!

斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い...

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』独占配信中。

ジェーン・カンピオン。その名前に反応する人も「そういえば、彼女の監督作品を最近観ていない」と、懐かしさをおぼえるかもしれない。

カンピオンといえば、代表作はやはり1993年の『ピアノ・レッスン』だろう。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを女性監督として初めて受賞。同作はアカデミー賞でも脚本賞や、ホリー・ハンターの主演女優賞、アンナ・パキン(撮影時は11歳)の助演女優賞を受賞し、30年近く経った今も、この作品を鮮烈に記憶している人は多い。

ときは19世紀。聾唖のヒロインが、結婚のためにスコットランドからニュージーランドへ渡るも、その結婚相手ではなく、現地の別の男性と愛し合ってしまう。ある意味でセンセーショナルな展開をみせる『ピアノ・レッスン』は、ニュージーランドの幻想的な自然による映像美、耳に残る音楽はもちろんのこと、主人公の秘められた欲望が解放されるプロセスが、観る者の心を激しくざわめかせた。女性監督の作品として観ることで、さらに作品のテーマが強烈にせり出したのである。

カンピオンはその後も作品を撮り続けていたが、長い空白期間を経て、じつに12年ぶりに完成させた長編作品が、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』。映画ファンには待望の一作であり、期待に応えるかのように、お披露目されたヴェネチア国際映画祭では銀獅子賞(監督賞)に輝いた。その味わいは、重厚そのもの。そしてまたしても激しく心をざわめかせる展開。何より、秘められた欲望の解放という、『ピアノ・レッスン』との共通点も感じさせる作品になっていた。しかも、これまで女性が中心の物語を撮り続けてきたカンピオンにとって、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』では初めて男性が主人公になっている。その点にも、監督の並々ならぬ意志が感じられる。

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』独占配信中。

1920年代、アメリカのモンタナで、大牧場を営むフィルとジョージの兄弟。弟のジョージが、未亡人のローズと愛し合い、結婚を決意したことで、フィルの心にはさざ波が立つ。フィルは典型的なカウボーイで、徹底した男尊女卑の考え。一方のジョージは、性格が内向的で女性にも優しく接する。この対照的な男2人と、女性1人の関係に、『ピアノ・レッスン』の記憶が甦る。さらにローズの息子、ピーターが物語のキーパーソンとなって、登場人物たちの運命を左右するのも、『ピアノ・レッスン』の少女フローラを重ねたくなる。実際にピアノが重要な役割を果たしたりもして、こうして一人の映画作家の志向を感じさせるのも、映画の醍醐味だと本作は教えてくれる。

フィルの男性優位主義の言動は、あからさまに強調される。見るからに繊細なピーターを「男のくせに女々しい」と批判し、ジョージに向かって「女とヤルだけなら結婚許可証は要らない」などと叱咤する。かなり極端だが、これが当時のカウボーイ社会の常識、いや、今も世界のあちこちに根強く残るジェンダー差別、「男らしさ」「女らしさ」への不要なこだわりであることを、フィルというキャラクターに託しているのは明らかだ。

しかし、そんなフィルが、ジョージの結婚によって心が揺らぎまくる中盤あたりから、観ているこちらにも、彼の本質がじわじわと、スリリングに忍び寄ってくる。そこに想像力をはたらかせながら観ると、この『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の沼に引きずり込まれる感覚を味わえるはず。

「男らしさ」で武装したフィル。その内面を徐々にちらつかせる過程は、ベネディクト・カンバーバッチの重層的な名演技で達成された。自分自身の本能に向き合おうとしたときの、はかなく、心もとない表情には観ながら鳥肌が立った。そのカンバーバッチを上回る存在感が、ピーター役のコディ・スミット=マクフィー。ひょろっとした体型も個性的なうえに、『ぼくのエリ 200歳の少女』のリメイク『モールス』の主人公以来、周囲から理解されないセンシティヴさを抱えた役を得意としてきた彼が、その持ち味を最大限に発揮。カウボーイたちの男社会の中で異彩を放ち続ける。

こうした登場人物たちの不安定で、予定調和にいかない心情を際立たせるのが音楽。メロディというより、リフレインを繰り返す「音」で構成されたサウンドトラックを手がけたのは、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドで、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』以来、映画音楽に積極的な彼の、これはひとつの境地が達成されたと言っていい。荒涼とし、すべてが砂で薄汚れたようなモンタナの世界(撮影地はニュージーランド、オーストラリア)に、音楽が一体化していく。

『ピアノ・レッスン』から30年近く経って、男性側からジェンダーやセクシュアリティの問題を鋭く突きつけるという、2021年らしいアプローチに挑み、俳優から引き出す人間の深い闇、そして音楽の効果など、映画に必要とされる要素をマックスで組み合わせたジェーン・カンピオン。まぎれもない、巨匠であることを本作は証明した。

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、全世界独占配信中。

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『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
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斉藤博昭
斉藤博昭

映画専門のフリージャーナリスト、フリーライター。ダンサー経験もあるのでミュージカルにはうるさく、幼い頃からあこがれの国だったイギリスの映画が大好物。ベスト1本挙げるなら『ザ・コミットメンツ』。

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